その4 「NôS in 共栄窯 ── 窯に火が灯った夜、そして煉瓦の壁が記憶していること」

3月22日、午後6時。

ギャラリー共栄窯のイベントホールは、
これから始まるライブを前にして、
静かな佇まいを見せていた。

かつて実際に稼働していた窯の名残として、
釉薬が幾重にも重なった跡が黒く光っている。
中に入ると、洞窟とも違う、
一種の「囲まれ感」に包まれるような独特の雰囲気だ。

宮野さんに後から聞くと、
「中音域がすごくよく響く、
独特の鳴りがある場所」だと言っていた。
やきものの町・常滑が生んだ、
他にはない音響空間だった。

新聞掲載が功を奏したのだろう。
開演前から続々とお客様が集まってきた。

年齢層は幅広く、
見るからにギター少年といった若い人から、
音楽を聴き込んだ年配の方まで。
定員60名のホールが、みるみる埋まっていった。


定刻になって、NôSの二人がホールに登場した。

ざわついていた空間が、一瞬の静寂となった。

オープニングの1曲目——「
海岸のサンバ」が始まった瞬間、
その圧倒的なギターテクニックと迫力に、
ホール全体が飲まれるようだった。
とてもナイロン弦ギターとは思えない鋭い音色。
太いネックのフレットを縦横無尽に駆け巡る指の動きに、
皆の視線が集中した。

2曲目「ブラジル」が終わった途端、割れんばかりの拍手がホールいっぱいに響き渡った。

短いMCを挟みながら、
最後の曲へ向かって、
全力疾走で駆け抜けていくような感覚だった。

中村善郎さんがコードで美しく舗装路を作り、
そこに宮野さんのリードギターが高性能車のように
全速力で駆け抜けていく——
そんな二人の関係性がくっきりと見えた夜だった。


最後の曲「ビリンバウ」で完全燃焼し、
窯のホールは熱い熱気に包まれた。

アンコールの「ワン・ノート・サンバ」で、
クールダウンして、2時間のライブが終了した。

席を立つお客様からは
「すごかったね」「来てよかったね」と
嬉しい言葉をいただいた。

中でも特に印象的だったのは、
あのギター少年だった。
帰り際、曲のフレーズを口ずさみながら歩いていた彼が、
ふと立ち止まった。
そして演奏していた二人の、
今はもう誰もいない席をじっと見つめていた。

その後ろ姿が、今でも目に焼きついている。

静かな眠りについていた窯のホールが、
一夜の熱いライブで燃え上がった。
家路に急ぐお客様を見送りながら、
そんな感慨にしばらく浸っていた。


あれから月日が流れた。

あの夜、NôSの音楽が響き渡った窯のホールは、今は静かなバーとなっている。

煉瓦のアーチ天井は変わらず、そこに刻まれた釉薬の跡も変わらない。
ただ、あの夜客席を埋め尽くした人々の熱気の代わりに、
今はグラスを傾ける人の静かな時間が流れている。
奥にはグランドピアノがひっそりと佇んでいる。

この空間を知っている者には、
壁のどこかにまだあの夜の音が染み込んでいるような気がしてならない。

ボサノヴァの旋律と、ギター少年の後ろ姿と、割れんばかりの拍手と——。

それらはすべて、この煉瓦の壁が静かに記憶している。


あの夜の余韻と伴に、NôSの音楽をぜひ聴いてみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=82j8Mxmou3U



NôS in 共栄窯 1998年3月22日(日)18:30〜20:30

会場:ギャラリー共栄窯・イベントホール
(愛知県常滑市北条2-15) チケット:2,500円(1ドリンク付)

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この記事を書いた人

ボサノバの柔らかなリズムに耳を傾け、バーのカウンターで静かに杯を傾け、古い外車のエンジン音に胸を躍らせる——そんな日々を綴っています。名古屋を拠点に、大人の趣味をゆるやかに深める「リオ・ボッサ」です。音楽・酒・車、どれも知れば知るほど奥が深い。そのときめきを、このブログで分かち合えたら嬉しいです。

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