夕陽が沈むまで 貴方と二人で ――Speak Low Stories 01

半島の先端にあるヨットハーバーは、
平日のためか周囲には緩やかな時間が流れていた。
帆を畳んだ白いヨットが、規則正しく隊列を組んで並んでいた。

夕陽が美しく見えると評判の店は、
その先にあった。

店の西側全体はレトロ調な建物ながら、
薄いブルーに包まれた落ち着いた雰囲気だった。
オープンデッキのテラス席こそが、
その名高い夕陽を望む特等席であった。

午後も少し時間が回り、眩しいくらいの明るさから、
少しずつ限りある夕暮れの時間帯へと移り変わっていった。

一人の女性がテーブル席に座り、静かに海を見つめていた。
年齢でいえば30代後半。
身なりから、会社役員もしくは経営者のような雰囲気を漂わせていた。

彼女はサングラスをかけ、白いハンドバッグから一枚の写真を取り出した。
そこには彼女と寄り添う若い男性が写っていた。

白い正服に身を包んだ凛々しい姿——その後ろに、
紺メタリックのジャガーEタイプが静かに佇んでいた。
彼の自慢の愛車だった。それはまさに、
このレストランの駐車場で撮られた一枚だった。

写真を見つめるうち、彼女はすすり泣きを始めた。
涙がぽたりと彼の顔にかかり、
慌てて指先で拭う。
「ごめんね、私はそんな強い女じゃないの……」と、

彼女は小さくつぶやいた。

先ほどまで流れていた賑やかなBGMが途絶え、

その数秒後——セルソ・フォンセカの La Più Belle del Mondo が、静かに流れ始めた。

世界で一番美しい人へ。いつまでも、あなたのそばにいる。

その旋律に聴き入りながら、彼女は沈みゆく夕陽をいつまでも眺めていた。

 

 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ボサノバの柔らかなリズムに耳を傾け、バーのカウンターで静かに杯を傾け、古い外車のエンジン音に胸を躍らせる——そんな日々を綴っています。名古屋を拠点に、大人の趣味をゆるやかに深める「リオ・ボッサ」です。音楽・酒・車、どれも知れば知るほど奥が深い。そのときめきを、このブログで分かち合えたら嬉しいです。

コメント

コメントする

目次