半島の先端にあるヨットハーバーは、
平日のためか周囲には緩やかな時間が流れていた。
帆を畳んだ白いヨットが、規則正しく隊列を組んで並んでいた。
夕陽が美しく見えると評判の店は、
その先にあった。
店の西側全体はレトロ調な建物ながら、
薄いブルーに包まれた落ち着いた雰囲気だった。
オープンデッキのテラス席こそが、
その名高い夕陽を望む特等席であった。
午後も少し時間が回り、眩しいくらいの明るさから、
少しずつ限りある夕暮れの時間帯へと移り変わっていった。
一人の女性がテーブル席に座り、静かに海を見つめていた。
年齢でいえば30代後半。
身なりから、会社役員もしくは経営者のような雰囲気を漂わせていた。
彼女はサングラスをかけ、白いハンドバッグから一枚の写真を取り出した。
そこには彼女と寄り添う若い男性が写っていた。
白い正服に身を包んだ凛々しい姿——その後ろに、
紺メタリックのジャガーEタイプが静かに佇んでいた。
彼の自慢の愛車だった。それはまさに、
このレストランの駐車場で撮られた一枚だった。
写真を見つめるうち、彼女はすすり泣きを始めた。
涙がぽたりと彼の顔にかかり、
慌てて指先で拭う。
「ごめんね、私はそんな強い女じゃないの……」と、
彼女は小さくつぶやいた。
先ほどまで流れていた賑やかなBGMが途絶え、
その数秒後——セルソ・フォンセカの La Più Belle del Mondo が、静かに流れ始めた。
世界で一番美しい人へ。いつまでも、あなたのそばにいる。
その旋律に聴き入りながら、彼女は沈みゆく夕陽をいつまでも眺めていた。

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