祖母の秘めた恋 二部 見知らぬ人からの手紙 ――Speak Low Stories 02

そのときだった。棚の奥を見ていた姉妹が声を上げた。

「ねえ、これ何だろう?」

二人が持っていたのは、美しい細工の施された化粧箱だった。
蓋を開けると、中には古い封書が何十通も丁寧に収められていた。
差出人はすべて同じ人物だった。
しかし、その名前を知る者は家族の中に誰一人いなかった。

「親戚じゃないよね?」 「聞いたことない名前だな」

首をかしげる家族の前で、長女が一通の手紙をそっと開いた。
読み進めるうちに、その表情が変わっていく。

それは祖母が十七歳だった頃の恋の記録だった。
相手は海軍の青年将校。戦況が日ごとに厳しさを増していく時代の中で、
二人は手紙を交わしていた。
封筒の紙は黄ばみ、文字も薄れていたが、

そこに綴られた想いは不思議なほど鮮明だった。

ある手紙にはこう書かれていた。

『海は今日も青く、穏やかでした。君と歩いたあの日の海岸を思い出しております。
こんな時代だからこそ、その記憶が私の支えです。』

長女は次の手紙を開く。そして最後の封書にたどり着いた。
そこには、ついに出撃命令が下ったことが記されていた。
便箋の最後には短い追伸が添えられていた。

『ありがとう。君のことは決して忘れぬ。』

(三部に続く)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ボサノバの柔らかなリズムに耳を傾け、バーのカウンターで静かに杯を傾け、古い外車のエンジン音に胸を躍らせる——そんな日々を綴っています。名古屋を拠点に、大人の趣味をゆるやかに深める「リオ・ボッサ」です。音楽・酒・車、どれも知れば知るほど奥が深い。そのときめきを、このブログで分かち合えたら嬉しいです。

コメント

コメントする

目次