長女は何度も涙を拭った。その横で次女が化粧箱の底を触りながら声を上げる。
「あれ? 下に何かあるよ」
底板は隠し蓋になっていた。慎重に外すと、
その下から一枚のモノクロ写真が現れた。
若き日の将校と、十七歳の祖母が並んで写っていた。
セーラー服姿の祖母は長い髪を肩まで垂らし、はにかむように微笑んでいる。
隣の将校は背が高く、凛々しい顔立ちの青年だった。
誰にも語られることのなかった一枚の写真。
七十年以上の歳月を経て、
その想いだけが静かに残されていた。
長女は窓の外に広がる青空を見上げた。
祖母とあの青年将校は、今ごろ向こうの世界で再会できただろうか。
ふと、どこからかラジオの音が聞こえてきた。
リクエスト番組から流れてきたのは、
シリア・ポールの「夢で逢えたら」。
澄んだ歌声が、和洋折衷の静かな部屋を優しく満たしていく。
窓の外では高原の風が木々を揺らしていた。
その風に乗って、遠い昔の恋の記憶もまた、静かに空へ帰っていく。
(完)

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