そのときだった。棚の奥を見ていた姉妹が声を上げた。
「ねえ、これ何だろう?」
二人が持っていたのは、美しい細工の施された化粧箱だった。
蓋を開けると、中には古い封書が何十通も丁寧に収められていた。
差出人はすべて同じ人物だった。
しかし、その名前を知る者は家族の中に誰一人いなかった。
「親戚じゃないよね?」 「聞いたことない名前だな」
首をかしげる家族の前で、長女が一通の手紙をそっと開いた。
読み進めるうちに、その表情が変わっていく。
それは祖母が十七歳だった頃の恋の記録だった。
相手は海軍の青年将校。戦況が日ごとに厳しさを増していく時代の中で、
二人は手紙を交わしていた。
封筒の紙は黄ばみ、文字も薄れていたが、
そこに綴られた想いは不思議なほど鮮明だった。
ある手紙にはこう書かれていた。
『海は今日も青く、穏やかでした。君と歩いたあの日の海岸を思い出しております。
こんな時代だからこそ、その記憶が私の支えです。』
長女は次の手紙を開く。そして最後の封書にたどり着いた。
そこには、ついに出撃命令が下ったことが記されていた。
便箋の最後には短い追伸が添えられていた。
『ありがとう。君のことは決して忘れぬ。』
(三部に続く)

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